1946年から58年まで、アメリカは、
太平洋に浮かぶマーシャル諸島(現マーシャル諸島共和国)の
ビキニとエニウェクト環礁で67回の原水爆実験を行いました。
この結果、爆心地に近い3つの島が吹き飛んで消滅、
20世紀最大にして最悪の環境汚染を引き起こしました。
1954年3月1日、ビキニ環礁で行われた「ブラボー」という
広島、長崎の1000倍もの破壊力をもった水爆実験により、
爆心地から160キロの位置で操業中だった
日本のマグロ漁船『第五福竜丸』が被爆、犠牲者も出ました。
他にも1000隻近い漁船が被爆したとされています。
また、爆心地から180キロに位置するロンゲラップ島をはじめ、4島の住民は、
核実験が行われることすら知らされないまま、死の灰を浴びました。
島の子供たちはみな、空から舞い落ちる白い粉が珍しく、
身体にかけて遊んでいたといいます。
被爆後、島民たちは島を追われ、今も後遺症に苦しんでいます。
汚染された島は、いまだに放射能が高濃度で残存し、
人が住める環境ではありません。
先日、あるテレビ番組でビキニ環礁の映像が流れていました。
原水爆実験から半世紀を経て、死滅したはずのその海は、
どこまでも透き通るように美しく、立派な珊瑚群に覆われていました。
(ただし、42種の珊瑚は未だ回復しておらず、
そのうち28種は完全に絶滅したと考えられています)
皮肉にも、放射能汚染により人間がその地域に一切立ち入らなかったことが、
美しく豊かな海を蘇らせたのです。
爆破により沈められた戦艦は朽ち、たくさんの魚の住処となって、
静かにその身を海底に横たえていました。
人間が作り上げた愚かなる戦争の遺物をもその懐に優しく抱き、
無数の命を育む大いなる海に、
いつの場合も、諸悪の根源は人間なのだと思い知らされたようで、
ふと、あの話(『
たったひとつの願い』)が頭をよぎりました。