『原発ジプシー』という言葉があります。
フリーライター堀江邦夫さんが、自らも原発で働いた経験を書いた
ノンフィクション本(1979年)のタイトルで、
各地の原発で働く、日雇いの下請け臨時労働者のことを意味します。
これまでその存在は、巷で都市伝説的に囁かれることはあっても、
電力会社、国、裏社会が一体となって闇から闇に葬り、
広く世間に知られることはありませんでした。
NHKが『
福島第一原発 作業員に何が』(8月12日午後10時55分〜)
という追跡ドキュメンタリー番組を放送しました。
大口スポンサーとして、電力会社からの莫大な広告費が
見込めなくなった報道機関が、最近になってようやく、
原発の抱える問題を取り上げるようになってきました。
国民から徴収した受信料で電力会社の社債を大量に買い込んでいた
NHKとて論外ではないので、視聴率の低い時間帯ではありますが、
福島原発事故以前だったら、こうした番組は考えられなかったと思います。
『金の切れ目が縁の切れ目』とはよく言ったものです。
今をさかのぼること三十数年前の1974年、
敦賀原発で作業中に被爆した岩佐嘉寿幸さんが、
電力会社を相手に、日本で初めての原発被曝裁判を起こしました。
当時の日本は高度成長期の真っ直中で、
原子力は『平和利用』の名の下、豊かな社会を築くための
『夢の次世代クリーンエネルギー』としてもてはやされていました。
岩佐さんの訴えに興味を抱いたり、支持をする人は極わずかで、
そればかりか、岩佐さん自身までもが『非国民』と非難され、
さまざまな妨害、嫌がらせを被ったそうです。
阪大病院によって『放射性皮膚炎』と診断が下されるなど
(診断書を書いた医師は左遷)被曝は明らかであったにもかかわらず、
電力会社と政府はこれを認めず、官僚や御用学者を総動員して
事実をねじ曲げ(今の状況と大差ないですね…)、
結局、大阪地裁、高裁ともが訴えを退け、最高裁も上告を棄却しました。
フォトジャーナリストの樋口健二さんは、
岩佐さんが訴えを起こしたのを機に、原発で働く
下請け労働者の実態を、長年にわたり追跡取材しています。
岩佐さんは亡くなる2週間前、見舞いに訪れた樋口さんに、
「俺の苦しみを伝えていってくれ」と遺言を残されたそうです。
その樋口健二さんが制作取材したドキュメンタリー番組
『隠された被曝労働〜日本の原発労働者〜』は、
各方面からの圧力により日本国内では放送禁止となりましたが、
1995年にイギリスのチャンネル4で放映されたものを、
岩佐基金(岩佐嘉寿幸さんの裁判を支援する基金)が、
同局の許可を得て日本語版を作成し配給。
現在、YouTubeで見ることができます。
・
『隠された被曝労働〜日本の原発労働者1』-YouTube・
『隠された被曝労働〜日本の原発労働者2』-YouTube・
『隠された被曝労働〜日本の原発労働者3』-YouTube三本で約25分ほどの動画ですので、是非とも
一人でも多くの方に見てもらいたいと思います。
ただし、福島原発事故後しばらく閲覧不能だったらしいので、
そのうちにまた当局の圧力により削除されてしまうかもしれません。
事実、2011年7月27日の衆議院厚生労働委員会参考人説明で、
児玉龍彦さんが国の原発対応を強く非難した動画も、
(当ブログでも紹介→『
国の原発対応に満身の怒り-児玉龍彦教授』)
直後はしばらく閲覧不能になりました。
経済産業省資源エネルギー庁は、原発関連の報道や記事を監視するために、
本年度分を含めこの四年間で約一億三千万円もの血税を注ぎ込んでいます。
まるで国家が言論統制を強いていた戦時中のようです。
繁栄の裏で使い捨てにされる原発下請け労働者、
その実態に深くかかわる闇社会の存在、
自分達の既得権益を守るためなら手段を選ばない電力会社、
莫大な原発マネーにたかる政治家、官僚、学者、マスコミ…
「日本は豊かな国だ、先進国だ、
民主主義だと言ってるけど、全く絵に描いた餅ですよ」『隠された被曝労働〜日本の原発労働者〜3』の最後で、
岩佐さん言い放った言葉が、今さらながら心に突き刺さります。
広島と長崎に落とされた原爆により『被爆国』となった日本は、
今度は、福島原発事故により『被曝国』となりました。
66年前と違うのは、この悲劇が、どこでもない
自らが押し進めてきた国策により起こったこと、そして、
広く国内外に放射性物質を降らせた当事国でもあることです。
福島県内では1000人以上の子供の甲状腺を調べたところ、
約半数から放射性ヨウ素による放射線が検出されたそうです。
この国の将来を担う大切な子供達を被曝させて、それこそ、
「なにが豊かな国だ、先進国だ、民主主義だ」と言いたいです。
日本が素晴らしい国になることを信じて、
尊い命を戦地に散らせた先人達は、
今の日本の現状を憂いているに違いない。。。
終戦記念日を迎えて、そんなふうに思うのは私だけでしょうか。。。
「原発はエネルギーの問題ではない。カネになるからだ。
人間を第一に考えて、いま原発を止めなきゃ日本人の恥だよ」(樋口健二/毎日新聞『ペン&ペン:被曝労働の闇/福岡より抜粋)
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[参考文献]
・Lberal Utopia 持続可能な世界へ
樋口健二氏講演「ヒバク~放射能の恐怖」(1)巨大原子力産業がマスコミをコントロールしている
・Ceron.jp-『原発内部労働者40万人が被ばくの実態』ジャーナリスト樋口健二氏2005年講演
文字おこし記事まとめ:ざまあみやがれい!
・『九十九里の』(岩佐基金)
・毎日新聞『ペン&ペン:被曝労働の闇/福岡』
[関連情報]
・(スペインの新聞)調査報告/原子力発電所における秘密・日本の原発奴隷
・原発ジプシー-JanJanBlog
・原発がどんなものか知ってほしい
・よくわかる原子力-原発で働く人々
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